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序章
 1 はじめに
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 彼らは生物は皆平等であると考えている。また彼らは個人の能力を本能的に尊重する。
 また戦いは正義のもとで実行され、戦いの中においても相手を尊重した。侮辱すること、侮辱されることをとにかく嫌う。そのため数分の間話したりしただけで相手の種族を決めつけてしまうことはほぼ”侮辱し”たことになる。
 他人を侮辱するのは『悪魔族』ぐらいのものとされるが、『悪魔族』は無差別な略奪や戦いを繰り返すため一種の社会現象である。無駄だという者もいたが、『悪魔族』でない種族の子供を育てるためにも、他と共存するうえでの基礎常識を『掟』として定義させた。今、『掟』を守っている者は少ないであろう、人口の少ない心の広い者ばかりがいた時代に基づいたものだ。

一、他の者を侮辱してはならない。後に悔やむ事があるならば、躰と心を以て其の意を表すこと。そして生涯其の罪を背負うこと。
二、戦う時は礼儀に従って戦うこと。礼儀とは即ち他との交渉を持つ際に尽くすべき敬意表現と、超えてはならぬ言動の壁である。
三、他の者の行為が正しい時、その善悪に関わらずその者の行為を邪魔してはならない。
四、真の「友」とは、互いに欠点を埋めあい互いに長所を敬いあい万事信じることができる者のこと。以上のことに一つでも欠ける時、その者に真の「友」である資格はない。
五、個人を尊重し、常に謙虚であること。

 上の五つ、特に一つめと四つめは一番大きな礎とされる。“代表者”は管理下の者たちに対し常にこれを守らなければならない。
 教育する者は厳しく優しく『掟』を子供たちに植え付けた。

 一つの疑問を投げかけた者がいた。
 「我々と人間とはどう違うのか。」
我々、つまり“カルト”、とは、人間と同じような形をした「躰」という殻を持つ、他の言葉で言い換えられない生き物である。
 たいていの人間、ヒュームはこういうものを“化け物”とか“怪物”とかと罵りを含めて言う。また、持つ能力の差が月とすっぽんほど、あるいはそれ以上に大きく違うため、人間にしてみれば彼らはまさに天才であり、彼らにしてみれば人間はただのろくでなしにすぎない。
 それでも彼らの中に人間をひどく見下すような者はいない。正確に言えば、いなかった。

 『悪魔族』のみが唯一それをする。彼らは『掟』という柵が創られてもそ知らぬ顔で略奪を続ける。従って彼らは軽蔑され、恐れられた。民にとって『悪魔族』は恐怖をもたらすものとされた。
 『悪魔族』は黒魔法を使用する。『悪魔族』自体が他の種族に対して閉鎖的であるために詳しい仕組みは知られていないが、黒魔法は一般のものが使う白魔法よりたちが悪い。少ないエネルギーで確実に相手にダメージを与える。それも一生消えることのない痣を埋め込んだり、心・精神を修正不可能なほどに破壊したりしてしまう。

 そのため彼らは「神」という存在を脳裏に描くようになった。その者が正で有ろうが悪であろうが並はずれた力を持ち、自分たちを正当な、悪魔など存在ない世界に導いてくれる存在を強く信じた。大部分の者は今でもそれを信じ続けている。
 強い「気」は合体し、眼には写りにくい「力」となった。彼らは意志を持ち始めた「力」を「信神者」という者に管理させた。
しかしそれは大きくなりすぎて信神者一人では管理しきれなくなったため、彼らはその塊を幾つかに分けた。
一番「気」が密集し濃くなっているところを母体とし、祭壇を設けて祀った。母体と数個の塊は、小さくなろうと努力した。なぜなら一つの塊でも惑星一つの大きさに匹敵するため、生物の住むところに少なからぬ影響を与えてしまうからだ。
 こういった力の塊というものは常に一定の場所に留まっているわけではない。水中の藻のように漂う。信神者は力の塊と共に宇宙の中を移動し、今どこにいるかを常に母体の信神者へと伝えるのである。

 誰かが言った。
 「塊を何かに封じ込めてはどうか」
 強い力ほど他のものを魅了し惹きつける。塊と塊が引きあって合体しようとしていた。
そういうことで八面体のガラス容器の中に封じ込めた。
そしてできるだけ遠くにそれらを置いた。
 ある一つの塊を入れたガラスが割れた。彼らはまた頭を抱えた。
 「母体の一部をそれぞれに加えれば彼らは大人しくしてくれるだろうか」
見事に的中した。力の塊は凝縮されガラス容器の中へ収まってくれた。
信神者はというと力と一緒に容器の中に入り、生活する。力の塊は容器の中にはいると母体と同じように一定の場所にいて、動くことはなかった。
 次第に、ガラス容器の周りに星が集まってきた。渦を巻くように、水が流れるように。
生物はそれが大きくなったものを「銀河」と呼ぶ。ガラス容器の中によく星が入り込むため、容器は宝石のように光り輝く。そのため、生物はこの母体を含むガラス容器を「クリスタル」と呼ぶ。
 しかし母体の周りにだけ銀河は生成されない。星が集まらない。その代わり母体の中に色とりどりの宝石のようなものを生成している。ある生物がそれに触れようとすると、それはその生物の躰へ吸い込まれていった。それはその生物の精神力を数倍強くし、その躰に最も適した性質・”体質”を決定した。
 躰に染みついたクリスタルは、やがて生まれ出る子に自らの切片を託す。
 そしてその切片は主の躰とともに成長し、自らの性質、人で言えば個性を創り上げてゆく。そしてだいたい生後4、5年ぐらい経った頃、体質として表に現れ出る。
 世代を重ねるうちに、クリスタル、心晶は生物の「力の源」となり、「心」同然の存在になった。
 心晶は魂魄体の内部につくられ、魂魄体の性質をサポートする。つまり、魔力をサポートする。
 例えば、真空空間で生活できなかった生物の躰の周りを保護し、自由に動けるようになった。
 こういった心晶が生物の心を利用して持つ能力を心晶機能と呼ぶ。

 これはまだ、広い宇宙の中でも人口が一万も超さないほどの頃だが、この当時母体から心晶を得たものは全体の約5分の4、ほとんどである。 彼らを“はじめの実力者”と呼んだが、残り5分の1は実力者達と交わり子孫に心晶の切片を埋めるか、力の差に押しつぶされ滅びるしかなかった。
そのため地球に人間が現れる頃には、心晶というものは宇宙生物の体内に必ず存在するものとなっていた。

 心晶機能によって、生物はより世界を“生きやすく”なった。

 

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「我らが導よ、我らとこの世界を導き給え」