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序章
 2 ロード家 / 兄弟
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 「じゃあ奴は何だ。勝手に父上の家に出入りして」

 ストームにとって最大の問題がここにあった。ただ、ストームは不審者がプライベートな中に侵入しているために、アスハとレイを含めた家族や家になにかあっては危険だと、それだけが気がかりでこれだけ神経を逆立てているのである。

 『いや、……まあ、そう簡単に自由に出入りすることは確かに出来ないが』

 ルークはなぜそんなにも怒る必要がある、と心底思った。

 しかし言いかけてぐっと飲み込む。ストームの言うとおり、アスハの家族でなければ、結界が張られているこの家には簡単には入ることは難しいのである。

 スティルはそのことから得られる二つの推測のうち、簡単な方を口に出してみる。

 「身近のひとの可能性が高いね。そうぴりぴりする必要ないと思うよ、兄さん」

 もう一つの方であれば、あまり歓迎したくはないが、スティルが先ほど言ったとおり事態はもっと深刻な状態だ。

 ストームはそちらの方を心配している。

 「おまえらはのんきだな」

 弟と使い魔の鳩とを交互に見遣る。

 「兄さんが心配性なだけ」

 落ち着かずに、いや気が気でなく落ち着けない兄を見て、スティルは困ったように笑う。

 『そうだな。少しおまえは心配性が過ぎる』

 つられたようにルークがつけ加える。双翼を腕のように棟の前で組む。

 「ほらルークにまで言われた」

 兄が一羽の鳥にそんなふうに言われる、その様がおもしろくて、笑いながら茶化す。

 「………」

 自分の方を向かずに笑うスティルの姿が気にくわなかったのか、ストームはあからさまに不機嫌な表情を露わにする。しかしルークは続けて語る。

 『あと疑り深すぎる』

 「そうだよ、それになんかあれば父上か母上が対応してるはずだよ」

 ふっと顔をストームの方に向けて、へらりと笑う。そのスティルに怪訝な表情を崩すことが出来なかった。それを“納得がいかない”ととったルーク。

 『あとあきらめが悪い』

 どうだ言い返せるかと、胸を張る。

 『人の意見をなかなか聞かない』

 「……ルーク…」

 『マイペースだな』

 「…もういい、ルーク」

 やっと絞り出したようなストームの制止の声にも、ルークは態度を変えない。 

 『そうか?まだあると思うが』

 曰くストームの問題のある性格を再度まくし立てようとする。見るとストームの握りしめる拳が幽かな音を立てている。これ以上ルークに喋らせると、ストームは人心不審に陥るのでは無いだろうか。怒ってルークにつかみかかるところを想像してみたが、兄はそんなことでは怒りそうにないな、と否定する。兄は父に似て沸点が低く穏やかな性格をしている。

 「ん、いや、そんなもんで十分だと思う」

 スティルは兄の様子に気づかないルークを制止した。

 (うん、ちょっと……言い過ぎだよ)

 言い始めたのは自分で、便乗したのはルークである。一羽の鳥に責められる兄というのはなかなか滑稽な画だが、責任は自分にもあるので、ここはルークを意地でも止めることに徹することにした。

 (最後のはほめ言葉に聞こえてしまったけど)

 マイペースだというのは、少なくとも罵りでは無い。



 と、ルークと歓談にふけっていたその時。



 「なんだ、二人とも」



 背後から声がかけられた。よく知っている声だ。落ち着けている腰を浮かせて振り向く。

 「ここにいたのか」

 数刻前、書斎で見たときとほとんど変わらない様子で出で立つ、アスハがいた。

 光が差し込む半地下とはいえ、薄暗い鈍色の回廊にアスハの着物は白く映える。ストームとスティルは普段アスハと地上階で会うため、地下の倉庫で見る父は新鮮な印象だった。

 「父上」

 まぶしそうに見る二人にほほえみ、しかしすぐに怪訝な表情をする。

 「……ここで座り込んで、なにをしている?」

 ストームがひく、と顔を引きつらせる。スティルは改めて自分たちの状況を認めて、ああちょっとまずかったなと独りごちる。兄弟二人して廊下の真ん中に座り込んで、父にはさぞ不思議に見えただろう

 「あ、…いえ、ちょっと休憩です」

 スティルが困ったように笑う。アスハはそうか、とだけ返して、また笑った。

 ストームは気まずそうに視線をそらしていた。不格好な様を見せてしまったと思っているのだろう。

 「さて、二人とも」

 分かっているのだろうが、気にしないアスハは視線を廊下の先へ遣る。地下倉庫の奥の方だ。

 「レイが船を用意してくれた。そのままついて来い」

 その二人は、すぐに理解が出来なかった。父の口から意外な名前が出てきて驚愕した。

 アスハが同行するなら護衛は要らないだろう。ルークは自分の役目は終わったと判断し、風と共に消えた。遠くの方でばさ、と羽ばたきの音が聞こえる。

 「え?え―――」

 母が、何だというのか。二人は羽ばたきを聞きながら、慌てて持っていた荷物を持ち上げる。

 アスハの言葉が示す真実を、兄弟は知らなかった。

 促されるまま、地下倉庫の奥へ進んだ。






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「我らが導よ、我らとこの世界を導き給え」