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序章 2 ロード家 / 船 [←novel menu/back] [1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16][17] |
「そういえば兄貴」 「……」 「南の大陸に、貴重な資源が出てきたそうだ」 「……」 「効率いい燃料になりそうなのとか、武器になりそうな奴とか」 「……」 「だからかあさんにお茶もらったら見に行かないか?」 「……」 「時間が空いてればだけど」 「…………時間はある」 「そうか!じゃあ行こうか!後で!」 オールは返答に困っていた。正しくは、考え事で脳内の思考回路がほとんど支配されていて、フレイムの言葉にうまく反応できないのだ。 (…いや、違うな) 分かっている。今日はそんなことばかりだ。 (フレイムに対して、どう対応したらいいのか……わからない) 「今日は修行しにきたからなあ、母さんのお茶が飲めるとは思わなかった」 満足げに笑いながら歩みを進める。“修行”という言葉が耳に付いたが、フレイムは特に気にしているようではなかった。 “修行”の場で、その後レイは二人を自邸の部屋に招いた。そしてお茶を出すから待っていなさいと言って先に行ってしまった。そのままオールの庭で放置されてしまったわけだが、仕方がないので、のんびりと歩きながら両親の家へ向かうことにしたのだ。フレイムが「久しぶりに庭を歩きたい」と言ったせいもある。 フレイムの家がある敷地とアスハ、レイの敷地はかなり離れている。より南に位置していて、平均気温がアスハの敷地よりも20度ほど高い。雪も降らない。 距離が遠いため日常的にフレイムがこちらに来ることは滅多に無い。それゆえ母・レイの手料理などはとても懐かしいものがあるのだろう。 「……お」 庭を歩いていると、フレイムがふと声を上げた。 「なんだ」 ほら、そこ、とある一点を指さす。見ると、 「ウサギだ」 蒼い眼をした白いウサギがこちらを見ていた。 「眼が蒼い。……珍しい」 「ウサギの眼が全部赤いと思ったら間違いだ」 「…まあ、そうだな。世界は広い」 「でも、きれいな蒼だ」 フレイムが嬉々と頬をほころばせて言う。フレイムは何事でもよく笑う。 哀しそうだったり怒っていたりする表情は似合わない。喧嘩に負けて駄々をこねたり、父親に怒られて反抗心をむき出しにしたりすることはあったが、そんな感情もあまり似合わない。 (今日は珍しい表情を見た) 先ほどの修行で、知らなかった弟の一面を見られた気がした。 「……」 「……なあ」 「…………ああ」 「……なんだろうな」 「わからん」 「即答かよ」 「……地味に怖ぇんだけど」 「……お前でも怖いものがあるとは」 「兄貴ぃ………」 それはねぇわ、とひきつった笑みを浮かべてフレイムが後ろをちらりと見る。 白いウサギがひょこひょこと後を付いてきていた。 「あの蒼が不気味に見えてきた」 「言うな、俺もだ」 蒼い眼をしたウサギはじっとこちらを見つめては、二人の後ろを付いてくる。二人の普段歩く歩幅は割と大きい方なので、普通に歩く二人にウサギはなかなか追いつけない。 それでもウサギとはいえ、なついた訳でも無いのに追いかけられると気味が悪いのだった。 「え、俺らなんか気に入られちゃったのか?」 「…そんな訳はあるまい」 初対面だ、とオールは顔をしかめた。当然だ。 「兄貴が困ってる」 その表情をフレイムがからかう。 「兄貴にでも分からないものがあるとは」 実に楽しそうな表情で言うのに、オールは面食らってしまった。 (……嫌味じゃ無いんだろうけどなあ) 先ほど自分がフレイムに言った言葉をかけてみたんだろう、と思うと、悪く思えなかった。 少し頭が冷えた。 「敵意は無いことは分かる」 茶化したつもりでオールは言う。そして立ち止まると、フレイムもあわせてきた。 「俺が思うに、兄貴」 「なんだ、怖くないのか」 「ねぇよ、何いってんだ」 「怖がってると思っていた」 「ねぇって」 冗談を言ったおかげで、お互い頭が落ち着いてきたんだろう。 フレイムの眼が近づいてくるウサギを注視する。 「俺が思うに」 先ほどと同じことを繰り返して、ふっと静かに笑った。 「こいつ、アースの魔物じゃねぇかな |
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「我らが導よ、我らとこの世界を導き給え」