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序章 2 ロード家 / 兄弟 [←novel menu/back] [1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12] |
オールの敷地内。 「母、上……」 突然の母・レイの登場に、オールとフレイムは困惑していた。 「得物を納めなさい。この修行はここでお終い」 「……、」 フレイムが何かを言おうと口を開けて、止めた。 だらりと剣を持つ腕が力をなくす。オールも躰全身の緊張を解いて、フレイムから距離をとる。墨花夜叉を鞘に収めた。 「フレイム」 レイの声に、フレイムの躰はびくりとはねた。視線が泳いで、明らかに動揺している様子だ。 (……何か、後ろめたいことがあったのか) その挙動に、レイの用事は自分ではなくフレイムだろうな、と推測した。もし自分であれば、あまりの急用でなければ、家が隣接しているのだから、いつでも話が出来る。 修行の最中割り入ってまでするような急用の話でなければ、だが。 そう思って、力を抜いた。 「……オール、あなたは知っているかしら」 しかし、声をかけられたのは自分だった。は、と思わず声に出してしまった。 「え、…あ、何を……ですか?」 自分に聞かれるとは思っていなかったので、質問をあまり理解していなかった。レイは今知っているか、問うた。なぜここにレイが来たのかわからないこの流れで、何が話題にされているのかまったく見当がつかないオールは、聞き返してしまった。 レイはざり、と修行場に踏み出した。母上、とオールは咎めた。ここは兄弟の血でぬれた土であるうえに、レイは裸足である。 「…今まで出現は何度も確認されてきたけど、話題にはされなかったわね…」 そのレイはオールの様子に構わずにぽそりと呟く。 血ぬれた茶色の土に、レイの白い服が擦れている。やはり脚が痛むのだろうか、少し眉をひそめたレイがこちらへと向かってくる。汚れますよ、とオールが言っても、レイは瞼を伏せて首を振るだけだった。 そして2mほど離れた距離まで来ると、ゆるりとオールを見て、言う。 「……“アパスル”」 その言葉に、オールは覚えがなかった。 「…は?」 す、と合わさっていた視線を外して、レイはフレイムを見遣る。二人の方に歩を進めて、レイは再び刀を納めなさい、と言った。 「…はい」 フレイムがようやく口から滑り出した言葉は、やっとのことで絞り出した、とでもいうような声だった。暗い表情で、するり、と黒彼岸を鞘に収めた。場の静けさに、刀が収まる金属音がやけに響いた。 それを認めると、レイはあの人間のような紅の塊へと――オールはすっかり失念していたが、それはフレイムから離れた位置にゆらゆらと揺らめきながら立っていた――視線を変えた。あれは、とすこし逡巡しているのか、口元に右手を添えて考えるそぶりをする。 そしておもむろに、オールへと視線を戻し、またフレイムを見て、今度はフレイムの方に近づく。 「…単色の入れ墨をした人を見たことはある?」 フレイムと手を伸ばせばすぐに触れられる距離まで近づくと、うつむいたまま動かないフレイムの頭を静かに撫でた。 「いいえ…」 多分、とつけ加えると、レイはくすっと笑って瞼を閉じた。 「幾何学的な模様で、躰のある部位に単色で現れる模様なんだけど…先天性のものだから、入れ墨、というのは間違いね。まあ、ほくろのようなものよ」 「はぁ……?」 ぽんぽん、とフレイムの頭を軽くたたきながら、レイはオールの方に顔を向けて笑う。躰はフレイムの方に向いている。 すると突然、うつむいていたフレイムが顔を上げて、背を伸ばした。そしてパンツの中からシャツの裾を取り出し、腹を出すようにめくりあげた。 母親とは言え女性相手に肌を露出する行為にオールは少し不快感を感じたが、それ以上にその様相に驚いた。先ほどオールが切り裂いてしまった白い腹は、見事に元通りになっていた。 「幼子の頃は痣のようでよく見えなかったけれど…」 レイは露わになったフレイムの腹をたどり、シャツをもっと上までたくし上げるようにフレイムに促す。フレイムの顔は明らかに嫌そうだ。 オールも『信』の使い手である。気づいていた。 「その模様を持ってる人を“アパスル”、と言うんだけど」 フレイムの腹の上、胸板の下、鳩尾あたりだろうか、明らかに痣には見えない傷跡にも見えない、しかし入れ墨のような色ではない鮮やかなそれに、オールは目を奪われた。 「またの名を、……“使徒”」 まさに幾何学的な、紅の模様が、フレイムの躰に刻まれていた。 (…使徒、だと) |
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「我らが導よ、我らとこの世界を導き給え」